大した用事でもないので写真はありません。
最初の目的地は西口側で、次の目的地は駅の向こう側だった。
別に入場料を払ったって良いのだが、今日は節約をする気分だった。
それらしく歩こうじゃないか。
ガード下のホームレスを見るたび、彼らがそうなるに至った理由が気になるのだ。
騒音、視線、空腹、それらを耐えてまで生にしがみつく理由を尋ねたら、きっと面白い。
タクシーから降りてきた若い女性はきっと水商売なんだろう。
そんなことより人の数が多すぎる。
娯楽目的の外出を取り締まる警察を心に宿している私にとって、彼らの存在は悪そのものだった。
まあだからといって私が正義であることにはならないが。
まとわりつく不快感、空気が湿って熱い。
中央線を使えば立川まで一本だというのに、私がその予定を取り下げるのに十分な理由がそこにあった。
ところで新宿駅付近には百貨店が数多くある。私は中でも伊勢丹が好きだ。
わざわざ東口側に移動した理由もこれが大きい。
伊勢丹の五階には生活雑貨-文具の種類が豊富だ-のほか、腕時計のフロアがある。
私は生意気にも腕時計に興味がある。
自身の左腕に巻かれたステンレススチールの塊が、常に私の心を弾ませるのだ。
店員は私の目当ての品を案内出来なかった。まだ入荷していないという。
どのみち買うつもりなどなかったし、買ったところで本当に使うかと言われればそれは頭を悩ます鋭い問いになり続けるのだから、これで別に良かった。
それよりも問題なのは、店内の至るところにある鏡に映る自分の容姿だ。
そう、醜い容姿だ。
苦しくなると同時に、ハッと気付いた。
まとわりつく不快感を不快感たらしめていたのは、まさにこれなのではないだろうか。
だからこんなにも暑いというのに、多くの人が元気に新宿を歩いているのだ。
私は諦めて電車に乗り、憂鬱を身に着けてそそくさと帰宅した。
最悪の人生である。